利用者情報漏洩事件は、介護界隈では日常茶飯事

目次

はじめに

京都府で訪問看護の看護師が89名の利用者情報を漏洩した事件は、介護現場における深刻な問題を浮き彫りにしました。今回の事件は、単なる個人情報保護法違反にとどまらず、利用者のプライバシー侵害、事業所への信頼失墜、そして、当事者の看護師のキャリアの終了と大きな影響があることです。但し、同様の事件は介護業界では多く発生している現状もあります。

事件の概要と問題点

今回の事件では、訪問看護に勤めていた看護師が同勤務先から利用者情報を不正に持ち出し、転職先の訪問看護事業所に提供したことが明らかになりました。この行為は、患者のプライバシーを侵害し、事業所の信頼を損なうだけでなく、以下のような問題点を孕んでいます。

  • 利用者の安全への脅威: 不正に取得された利用者情報は、悪用される可能性があり、利用者の安全を脅かす恐れがあります。但し、当事者の看護師が転職することを認識した上で、新たに転職した事業所へサービスが移ることを是認していた利用者も多く含まれると思われ、実質上の個人情報漏洩の損害は、当時者の新しい転職先へのサービス移行に同意しなかった利用者に限られてくると考えます。
  • 事業所への信頼失墜: 前職の事業所でサービスを継続したいと思っていた利用者は特に、自分の情報が、次の職場以外にも漏洩するのではないかと不安に感じ、事業所への信頼を失ってしまう可能性があります。
  • 民事での損害賠償請求・行政処分: 前職の事業所は利用者様の個人情報漏洩が実際に起きてしまっており、その民事的な賠償責任を負う可能性があります。また、漏洩させてしまった前職事業所、おそらくは前職から持ち込んだ利用者情報を活用し、サービス契約を獲得した転職先の事業所いずれも、行政指導・行政処分になる可能性があります。
  • 当事者のキャリアへの悪影響: 今回の様に司法が動き、逮捕・実名報道されることになると、当事者の看護師の方も、長時間の拘留や今後のキャリアへの影響が少なからずでると思います。応援して、サービスを新しい事業所に移してくれた利用者も離れて行くことになるでしょう。

情報漏洩事件が頻発する背景

このような利用者情報漏洩事件は、実は多くの現場で発生していることです。介護サービスでは、利用者個人と職員個人が繋がりを持つことが多く、特に ケアマネジャー、訪問介護、訪問看護といった利用者個人と二人っきりで長時間関わることが多い職種では、今回同様のことが多発していると考えられます。職員が退職する際に、もしくは退職後に、自分が担当している利用者に声を掛けて、新しい事業所に移ったことを伝え、利用者の契約を移行させようとすることが容易にできて、動機が働くからです。職員個人の連絡先を利用者が知っている場合も多く、退職した後に、利用者から職員個人へ連絡し、転職先での利用に移行し、職員個人のサービスを継続させようとすることも当然にあるでしょう。同じことは、職員が転職するだけでなく、独立する場合にも発生し、特に独立初期段階で利用者確保を早急に行い、収益の早期確保を行いたいと考えることは当然のため、同様のことが発生しやすくなります。
今回の事件で、利用者情報漏洩行為が刑法上の犯罪と認定されたことは、これまで横行していた利用者情報漏洩の実態に対して、抑止力となることが期待されます。

ファミーユヘルパーサービス名北での対策

ファミーユヘルパーサービス名北では、これまでも利用者情報が漏洩しない様に、以下の対応をおこなってきました。

  • 秘密保持の締結: 入社時に全社員について秘密保持の同意書を取得し、啓発しています。秘密保持は退職後も同様に責任を負うことを記載しています。
  • 職員教育: 情報漏洩や個人の連絡先を教え合うなど利用者様と必要以上の関係性を作ることの問題を日々発信する「教訓リマインド」に過去の同様の苦情・トラブルを入れて、定期発信しています。
  • ラインワークスの利用: 職員が個人の連絡先で利用者と連絡を取り合う必要が無いように、全社員にラインワークスのアカウントを作成、利用者様個人ラインとラインワークスをつなぎ連絡が取れるようにしています。退職後はラインワークスへのログインができなくなるので、連絡先を持ち出すことが仕組み上できなくしています。
  • サービス手順の標準化: 「この人がよい」「この人しかできない」といったサービスを減らすために、手順書の標準化と充実を進めています。実際に特定の職員しか入れないというサービスが減り、ほとんどのサービスは複数の職員が担当できる様になっています。

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    最終的には利用者が選択できること

    これまでは事業所から利用者個人情報を持ち出させない、漏洩させないという点で述べてきましたが、最終的には利用者は、自分がどの事業所からサービスを受けるか選択できるものです。自身が転職・独立する際に、積極的に利用者情報を持ち出したり、声掛けをするのではなく、引継ぎの段階で利用者からの希望に基づき、退職していく職員の行く事業所へサービスを移したいと思われるケースもあると思います。退職する職員としては、あらかじめ退職する事業所と話し合いを行い、適切な内容とタイミングでの退職交替の通知を利用者行っていくべきでしょう。また、事業所側は、そういった事態を引き起こしたくなければ、複数人でサービスを問題なく実施できる体制・標準化を進めていくべきでしょう。


    草野淳@ファミーユグループ代表 
    東北大学法学部卒業。アマゾン・ミスミグループなど国内外の人事マネジャーを歴任。人事制度・評価制度の構築の他、独学でITを習得し、多くの人事関連の業務効率化を主導。関連書籍も執筆。2021年からファミーユヘルパーサービス名北の管理者兼サービス提供責任者。


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