自動運転は「1回いくら」で社用車と比べない。訪問介護が持つべきは、移動の総費用と定時性のものさしだ

都市部で訪問先へ向かう介護職員と、社用車・オンデマンド移動を象徴する車両

自動運転配車を社用車の代替として判断するなら、運賃の安さだけで比べてはいけない。車両費、運転時間、事故対応、駐車、訪問遅延時の損失まで含めた「1訪問を時間どおりに完了する総費用」で比較し、移動手段を所有から組み合わせへ変えるべきである。

無料の自動運転実証が示したのは、安い移動ではなく「呼んで乗る」運用だった

愛知県は2026年9月11日、名古屋市都心部の5地点を結ぶ自動運転車のオンデマンド運行実証を始めた。平日10時から17時まで、アプリ予約に応じて3台が20ルートを運行し、期間は2027年3月19日までとされている。

このニュースで注目すべきなのは、自動運転車が決まった時刻表に沿うバスとしてではなく、必要なときに呼び、目的地で降りる移動手段として試されている点である。訪問介護の移動に引き寄せれば、職員が車を抱えて一日を回る形とは別に、訪問ごとに移動手段を確保する形が現実の選択肢になり始めた、と読める。

ただし、この実証の利用料金は無料である。したがって、これを根拠に「自動運転なら社用車より安い」とは言えない。1回500円程度なら代替を検討できるのではないか、という水準は、あくまで経営判断の仮説であって、今回の実証が示した実運賃ではない。

運賃だけを比べると、訪問介護の移動コストは必ず見誤る

現場では、交通費を1回200〜300円程度として扱う感覚がある。しかし、その数字だけで社用車と配車サービスを比べると、比較の土台がそろわない。そこに車両代、保険、整備、駐車場、燃料、事故時の対応、運転を担う職員の負担がどこまで入っているかは、別途見なければならないからだ。

逆に、配車サービスも表示された運賃だけでは済まない。希望の時間に車が来なければ、利用者宅への到着が遅れる。雨天、車両点検、通信障害などで運行が止まれば、急な代替手段を手配しなければならない。愛知県の実証も、希望する乗降地・時間に応じた配車とともに、走行安定性や運行オペレーション上の課題を検証対象にしている。天候や点検で運休する可能性も示されている。

訪問介護では、移動は単にA地点からB地点へ行く行為ではない。利用者との約束の時刻に到着し、ケアを終え、次の訪問へつなぐ仕事そのものである。安いが来ない移動手段は、高い車両費より経営に効く場合がある。ここに、一般の通勤や買い物とは異なる難しさがある。

比較すべき単位は「車1台」ではなく「1訪問を成立させる移動」だ

社用車を持つか、自動運転配車に替えるか、という二択から始める必要はない。先に作るべきなのは、1件の訪問を時間どおりに成立させるために、移動へ何円と何分を使っているのかというものさしである。

例えば、事業所から利用者宅まで近く、同じエリアに訪問が連続する日なら、車両を持つ強みは大きい。訪問の合間に記録や連絡を行いながら次の場所へ向かう運用とも組み合わせやすい。一方で、単発の訪問、駅や都心部に近く駐車の負担が大きい訪問、職員が運転を担うことで採用や配置に制約が出る訪問では、必要なときだけ呼ぶ移動手段の方が合理的になる可能性がある。

ここで見るべき項目は、少なくとも四つある。第一に、移動の直接費である。第二に、車両保有に伴う固定費である。第三に、職員が運転・駐車・事故対応に使う時間である。第四に、予定時刻に到着できない場合の損失である。後者には、利用者への影響だけでなく、後続訪問の遅れ、調整連絡、職員の心理的負担も含まれる。

自動運転の価値は、運転手がいないこと自体ではない。移動を「車を持つための仕事」から切り離し、訪問ごとに最も確実な手段を選べるようにすることにある。私たちが求めるべきなのは、全車両を一気に置き換える技術ではなく、車を保有しなければ回らない仕事を少しずつ減らせる運用である。

まずは車両代替の結論ではなく、移動の経営数字をつくる

  • 訪問ごとに、出発地、到着地、移動時間、駐車時間、交通費、遅延の有無を一定期間だけ記録し、「移動の見える化」を行う。細かな管理のためではなく、どの訪問で車両保有の負担が大きいかを見つけるためである。
  • 社用車にかかる費用を、月額合計ではなく稼働訪問数で割って捉える。車両代、保険、整備、駐車場、燃料などを分けて見ることで、「交通費200〜300円」という数字に何が含まれ、何が漏れているかを明らかにする。
  • 配車型の移動手段を試す場合は、運賃だけでなく、予約から到着までの時間、希望時刻に利用できた割合、運休時の代替手段、訪問への遅延影響を同じ表で記録する。無料実証の利用体験と、有料サービス導入の採算判断を混同しない。
  • いきなり全職員・全訪問を対象にしない。都心部、駐車が難しい場所、単発訪問など、車両保有との比較がしやすい場面から試す。車を減らすことを目的にせず、利用者へのサービス品質を落とさずに移動負担を減らせる場面を探す。

結論

自動運転配車は、現時点で訪問介護の社用車を置き換える価格材料を十分に示してはいない。だからこそ、期待だけで導入を語るのではなく、今ある車の総費用を測るところから始めるべきである。

将来、配車の安定性と実運賃が整えば、車を所有することは標準ではなく、数ある移動手段の一つになるかもしれない。その変化に備える経営とは、新技術を待つことではない。1訪問を確実に届けるための移動に、私たちはいくら払い、どんな負担を抱えているのかを、自分たちの数字で説明できるようにすることだ。

外部参考情報

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