訪問介護のDXは、紙を画面に置き換えることではない。分散した現場を一つの仕組みでつなぎ、人にしかできない判断と関係づくりへ時間を戻し、将来の需要変化まで見据えてサービスを組み直すことである。
訪問系のテクノロジー導入は、施設より遅れている
厚生労働省が2026年に公表した資料では、2025年9月時点の介護テクノロジー導入割合は、入所・居住・泊まり系が7.5割、訪問系が4割とされています。国も今後の方向性として、施設では見守りセンサーやインカムなど、在宅では介護記録ソフトとケアプランデータ連携システムなど、サービスの形に応じた支援を掲げています。
この差は、訪問介護にテクノロジーが不要だからではありません。施設なら、同じ建物、同じネットワーク、同じ機器を複数の職員が使えます。訪問介護では、職員も利用者様も場所も毎回変わり、通信環境も一定ではありません。さらに、予定変更、移動、鍵、申し送り、記録、請求まで、離れた場所で起きる仕事をつなぐ必要があります。
つまり訪問介護のDXは、機器を一台入れる仕事ではなく、分散した運営全体を設計し直す仕事です。難しいからこそ、単なるデジタル化では足りません。
1.0から4.0へ。変わるのは道具ではなく、仕事の境界
私たちは、訪問介護の働き方の進化を次のように捉えています。
- ヘルパーサービス1.0:電話、紙、個人の記憶と経験で仕事をつなぐ段階。現場の力量は高くても、情報が人に依存します。
- ヘルパーサービス2.0:記録や書類をデジタルに置き換える段階。検索や共有は改善しますが、二重入力や確認作業が残ることがあります。
- ヘルパーサービス3.0:連絡、記録、シフト、書類をつなぎ、定型作業を自動化する段階。人がシステム間を運んでいた情報が自動で流れます。
- ヘルパーサービス4.0:人が担う仕事そのものを再定義する段階。AIや自動化に任せる部分と、介護職の判断・対話・関係づくりを明確に分け、サービスの形を継続的に変えます。
4.0は、最先端の機器を大量に置くことではありません。人が毎日行っている小さな確認や転記を一つずつ剥がし、その結果として、利用者様の変化に気づく、支援方法を考える、家族や関係機関と話す時間を増やすことです。
制度だけ見ていると、訪問介護の変化を見誤る
介護ロボットというと、施設内の見守り、移乗、運搬などを想像しがちです。施設では、同じ空間で繰り返される定型業務ほど自動化しやすく、経営判断で一括導入しやすい。そのため、先に変化が見えやすいでしょう。
一方、訪問介護は一対一の支援であり、制度上の責任も明確です。ロボットがヘルパーの代わりに訪問する未来は、すぐには来ないかもしれません。しかし、ここで制度だけを見てはいけません。
掃除、洗濯、片付け、簡単な調理を行う家庭用テクノロジーが一般家庭へ普及すれば、介護制度が変わる前に、生活援助のニーズそのものが変化する可能性があります。これは確定した予測ではなく、私たちが経営上追うべき仮説です。反対に、安全判断、身体介護、行動援護、重度の支援、本人との関係づくりは、人の専門性がより強く求められます。
ヘルパーサービス4.0とは、今ある事務を効率化するだけでなく、家庭の技術環境が変わったとき、訪問介護に何が残り、何を磨くべきかまで考えることです。
今から進める四つのこと
- キャンセルや変更の情報を一か所へ集める。 誰が読んだか、どのシフトへ影響するか、何を確認すべきかが追えるようにします。
- FAXや書類を「画像のまま」終わらせない。 検索、分類、利用者情報との関連付けまで行い、探す時間を減らします。
- AIと確定処理を分ける。 要約や候補抽出はAI、削除や請求など間違えられない操作はルールと確認手順で守ります。
- 技術ニュースを、需要の変化として読む。 新製品の機能だけでなく、どの仕事が何分減り、職員配置や家庭内の支援ニーズがどう変わったかを追います。
結論
訪問介護は、現場が分散しているからDXが難しい。しかし同時に、移動、連絡、記録、調整の負担が大きいからこそ、仕組みを変えた効果も大きい仕事です。
目指すのは、ヘルパーをシステムの指示どおりに動かすことではありません。システムが周辺業務を引き受け、ヘルパーが状況を見て考え、人と向き合える状態をつくることです。
紙をなくしたかではなく、人の時間を何へ戻せたか。今日の効率化だけでなく、技術が家庭と介護の境界をどう変えるか。そこまで見続けることが、ファミーユの考えるヘルパーサービス4.0です。
外部参考情報
1970年USAメリーランド州生まれ、仙台育ち。東北大学法学部卒業。アイフル、S×L、ミスミグループ、Amazonなどで20年以上、人事・組織改革に従事。制度設計にとどまらず、業務を仕組み化・標準化し、組織全体の生産性を高めてきた。2021年より合同会社施恩(ファミーユヘルパーサービス愛知)の運営に参画。介護業界でDXや自社システム、AI活用、業務改革を推進。持続的に成長できる組織づくりに取り組んでいる。趣味は料理とアニメ鑑賞。イタリアンやスパイス料理づくりを楽しみ、音楽はPrinceと古内東子を愛聴しています。仕事でもプライベートでも、新しい発想や優れた表現に触れることを大切にしています
